名古屋高等裁判所 昭和25年(う)277号 判決 1950年4月12日
被告人
小池淸一
主文
本件控訴を棄却する。
理由
弁護人近藤亮太郞の控訴趣意第二点について。
被告人に送達された即ち本件控訴趣意書に添附されている起訴状の謄本と題する書面にはその原本の作成名義人たる検察官検事山口裕之の氏名が記載されていないこと、従つて右書面が完全な謄本といえないことは論旨の通りである。然しながら、法が被告人に対する起訴状の謄本送達を命ずる趣旨は当該事件の公判開廷前に予め被告人に対し真実起訴があつたこと、且つ何れの裁判所に対し如何なる犯罪事実が起訴されたかを明かならしめ以て被告人のこれに対する攻撃防禦の準備の機会を与えることにあるとせねばならぬから、送達された起訴状の謄本が如上の趣旨を達成し得ない程度に記載が不完全であれば適法な起訴状の謄本送達を欠くものとなさざるを得ないが、本件の所謂起訴状謄本は右のように起訴状作成名義人たる検察官検事の氏名を記載してない丈であり且つ右謄本には謄本たることを奧書した検察事務官天野泰顕の署名押印があり如上起訴状謄本送達の趣旨は充分達成し得るのであるから本件起訴状の謄本送達がなかつたものとするのは失当である。